量子計算、量子機械学習の定式化について

量子力学における粒子の統計性

量子計算、量子機械学習では何らかの量子状態を利用する。それを仕事なり勉強なりの対象として扱うためには数式で表現しなくてはいけない、と言った事を前回書いた。

量子力学に登場する「粒子」にはFermion(フェルミオン)とBoson(ボソン)の統計性を持つものがある。(Anyon(エニオン)というものもあるが、量子計算や量子機械学習の分野では見かけない。)Fermionの代表がElectron(電子)、Bosonの代表がPhoton(光子)である。

「統計性」と書いたがこれはその粒子の数に関する性質ということで、別に統計学と関係があるわけではない。

Fermionの特徴

同じ状態を持つものは1つに限定される。ある状態に一つ粒子が生成すると言うことはその状態の粒子一つは消えなくてはいけない。

Bosonの特徴

同じ状態を持つものがいくつあっても良い。ある状態に一つ粒子を生成したからといってその状態の粒子を消す必要はない。

量子計算、量子機械学習ではフェルミオン前提

日本語訳もある代表的な教科書は『量子コンピュータと量子通信』(Michael A. Nielsen, Issac L. Chuang 共著/木村達也 訳、オーム社、2004年)『量子コンピュータによる機械学習』(Maria Schuld, francesco Petruccione 著、大関真之 監訳、荒井俊太ほか訳、共立出版、2020年)であるが、フェルミオン、ボソンに関する記述はない。

定式化を見る限り、パウリ行列を使っているあたりフェルミオンを前提としているように見える。

通常の量子力学と同様な定式化を用いているので粒子数を中心に扱う。定式化では粒子が増えた減ったと言う事を中心に扱う。

生成消滅演算子(演算子のことをさことを作用素と言うこともある)と言うものである。

実際は両方必要

物性理論のような実用分野ではフェルミオン、ボソン両方とも使う。前者の代表が電子正孔対、後者の代表がフォノンである。両方が一つの式の中に登場する。数式を展開していく上で統計性に応じた変形が必要になる。

半導体物理などでは電子正孔対を主人公として周囲にある(フォノンを形成する)結晶格子との相互作用の時間発展を追跡するのが理論家の仕事の一つだ。運動方程式に両者が出てくるのは言うまでもない。

量子機械学習を実現していく上で、どちらか片方のみを利用するということは考えにくい。したがってこの分野を次の学習対象と考える人は両方が混在する式を取り扱えるようにならなくてはいけない。

次回予告

次回から数式を入れていく。量子計算、量子機械学習の理論でも広く使われている密度行列の手法を用いて手計算の方法を記載する。

物理系の学部を卒業した人でも教科書に書いてある数式を自力で計算した経験のある人は少ないだろう。そういったことができる人材が今後必要になると思うのでなるべくなるべく詳しく記述する。